mitsuhiro yamagiwa

2023-02-04

構成要素の拡張性

テーマ:notebook

 

 芸術は主体をその帰属から開放する。もとより既存の制度の内部で評価されることに彼女の関心はなかったはずである。

 入れ子(nest)構造をなす「積層関係」

 アサワとアルバースに共通するのは、内から外、あるいは外から内に向かう形態の反復である。

 空間は、物質的=彫刻的なヴォリュームとして提示され、そこに、連続するスケールの階層性(空間を重ね合わせ)がオーヴァーラップする。その内部では、空間が断続的に拡張、成長するのだ。

「拡張されたドローイング」と呼んだ造形的根拠

 フラクタクルは、数学者ブノワ・マンデルプロが導入した幾何学の概念として知られる。フラクタクルにおいて部分と全体は、自己再帰的に相似するという特性をもつ。自然界においては、野菜のロマネスコがフラクタクルの形態をもつことで知られる。フラクタクルとは、スケールの異なる相似形態が並び合い、折り重なる、ネスト構造であると言える。

 フラクタクルがもたらすのは、マルチ・スケール化された構成要素の拡張性である。

 アサワの作品に見られるのは、芸術家個人の「創造性」ではなく、自然の自己産出的な力、すなわち「生産性」である。

 アサワの彫刻に認められるのは、スケールの異なる形態が次々と連続、連動し、彫刻のヴォリュームをその内側から押し拡げる、その拡張的な力であった。ワイヤーメッシュが透かす内部の空洞は、この生産性を可視化する。

 自身の彫刻に、生物や植物が自らの生産力によって成長=生成する自然の力を実装することを企図していた。

 自然の能力、つまり自らを生成ー再生産する自然の生成力は、かならずその内部に、自己の複製をつくりだすことによって表現される。しかもそれは、かならず包含関係をもつのである。

 フラーによれば、地球は生命を維持するのに最適な環境として、宇宙にすでにデザインされた存在である。

 フラー・ドームは、(地球がそうであるように)生命を保護する皮膜である。

 つまり、生物は自己複製の過程で自らを「環境」化するのだ。

 生命体は、建築環境、都市環境、地域環境、地球環境、宇宙環境という5つの環境膜に保護されている。環境とは、このような多重の層となった入れ子である。これに加えて、生物個体もまた「身体環境」をもつ。

 私は必然的に、宇宙の住民(citizen of the universe)になることを志すようになったのです。それによって私は、家族、土地、人種などへの帰属から離脱し、そこから無限に後退していくのです。

 かつて人間の身体を拘束していたワイヤーは、その内部を風が通り抜け、光と空気を呼び込んで世界を押し拡げる素材となった。それは、環境として主体を包み、生かす。そのとき素材は、ひとつのメッセージとなる。

「ルース・アサワーー生命 / 環境のネスト」沢山遼/文『美術手帖2023年1月号』より抜粋し流用。