mitsuhiro yamagiwa

2023-07-30

インデックス

テーマ:notebook

第一章 開かれた全体

 私たちがつくり、かつ私たちをつくり出す、このような変化する文脈の内側に、私たちがいかに生きているのかを理解することは、長らく人類学の重要な目標とされてきた。人類学にとっての「人間的なるもの」は、ある存在として、またある知識の対象として、私たちがいかにこのような人間的特有の文脈ーーE・B・タイラーによる文化の古典的な定義では「複合的全体」とされたものーーに埋めこまれているのかに注意を向けることではじめ出現する。

 つまり、全ての記号が言語のような質をもっているわけではないし、また後に検討するように、記号を使うのがもっぱら人間だけだということもない。この記号のより広い定義は、ご存知の通り、記号が人間的なるものを超えてもつ生命に、私たちが慣れ親しんでゆく助けとなる。

 記号がいかに人間的な文脈に制約されるのかだけではなく、それを超えるところにいかにして到達するのかを理解する助けになる限りにおいて、つまり、記号がいかに私たちもまた感じることができる感性的世界の中にあり、そこから生じ、またその世界に関連するのかを明らかにする助けとなる限りにおいて、私たちを私たちたらしめる「複合的全体」の点から人間的なるものを理解することのかなたに向かう道のりを、ツブは伝えている。要するに、人間的なるものを超えて広がるものへと開かれている世界の中で「生きること」(キチュア語でカウサ=ンガバ)の意味するものを見定めることで、私たちはもう少しだけ「現実世界的」になることができる。

世界の中にあるものと世界から離れてあるもの

 全ての記号はまた何らかの仕方で世界の中にあり、そこから生じたものである。

 しかし、記号が常に媒介するという事実は、記号が、(人間の)精神のうちの隔てられた領域に必ず存在し、また記号が表すものからは切断されているということを意味しない。あとに示すように、記号は世界のそばにあり、それをめぐるものであるだけではない。それらはまた、重要な仕方で、世界の中にある。

 私たちだけが記号を解釈する唯一の存在ではないために、意味作用とは排他的に人間の領域であるわけではない。他なるたぐいの存在が記号を用いることは、人間の精神および人間的な意味の体系を超えた世界の中に表象がある様相の一例である。

 差異に対する注意の不在によって、それは意味をなす。あるものを独創的なものにするおびただしい数の特徴を無視することによって、非常に限定された一連の特徴が増幅されるのだが、ここでは、その行動を真似る音もまたこれらの特徴をたまたま共有するという事実のためにそのことが起こる。

 インデックスは、記号の広いクラスである第二のものの一部である。

 インデックスは、機械的な効果以上の何かを含む。何かそれ以上のものとは、逆説的に、それ以下のものである。つまり、不在である。気づかれる限りにおいて、インデックスはその解釈者たちを、ある出来事とまだ起きていない潜在的な出来事のあいだにつながりを生み出すように駆り立てる。

 何かが起きようとしている、そして、自分はそれに対して何かをしたほうがよかった。インデックスは、そのような不在の未来に対して情報を与える。インデックスは、今起きていることとおきるかもしれないことのあいだにつながりをつくり出すよう促すのである。

生ある記号

 記号には効果がある。そしてこのことが、正確に解釈項が意味することなのである。すなわち、「記号が生み出す固有の表意効果」である。

 記号は精神に由来しない。むしろ逆である。私たちが精神あるいは自己と呼んでいるものは、記号過程から生じる。

 人間であれ非人間であれ、単純なものであれ複雑なものであれ、諸自己は、その結果が未来の自己であるような新たな記号解釈の出発点であると同時に、記号過程の効果である。さらにそれらは、記号過程の中継点なのである。

不在

 記号は感性的な質を所有している。記号は記号を産出し、また記号によって産出される身体に関連するように例化(インスタンシェイト)される。

 生物学的な生命に直接関連するものだけではなく、全ての様式の記号過程は、不在によって意味をなすようになる。イコン性は、気づかれないことから生じる。インデックス性には、いまだ存在しないものについての予言が含まれる。さらに、象徴的指示は、イコン性とインデックス性もそのうちに巻きこんたプロセスを通じて、不在の世界を指差し、イメージする。そのようになるのも、あらゆる所与の発話が意味するものにとって、不在となる文脈を構成する象徴的体系にそのような指示が埋めこまれている仕方のためである。

 今ここにあるものと不在のあいだの止むことのない遊びが、記号に生命を宿す。

 その遊びは、記号を潜在的にありうる何かのイメージや暗示にする。

『人間的なるものを超えた人類学 森は考える』エドゥアルド・コーン/著、奥野 克巳・近藤 宏 /監訳、近藤 祉秋・二文字屋 脩 /共訳