mitsuhiro yamagiwa

ごあいさつ

ライアン・ガンダー(1976年生まれ)は、英国サフォークを拠点に活動するアーティストです。絵画、彫刻、映像、テキスト、VRインスタレーションから建築、出版物や書体、儀式、パフォーマンスに至るまで、幅広く多元的な作品と実践を通して、ガンダーは芸術の枠組みやその意味を問い直しながら国際的な評価を確立してきました。また、自身の制作に加えて、展覧会のキュレーション、大学や美術機関での指導、若いアーティストや子どもたちを支援する活動にも熱心に取り組んでおり、数多くの書籍の執筆・編集、テレビ番組の制作・出演を通じて芸術や文化の普及にも携わるガンダーは、現代におけるアーティストという主体のあり方を更新しています。

「一種のネオ・コンセプチュアルであり、特定の様式をもたないアマチュア哲学者」と自らを語るガンダーですが、一見親しみやすい作品の背後には、深い思索と鋭いユーモアが潜んでいます。共感とナルシシズム、時間と死、目に見えないものと偏見、自閉スペクトラム症に関する探究など、本展のために制作された数々の新作にも、実に多様なテーマが託されています。

カエル、ネズミ、鳥といった愛らしい動物たちも、無垢(あるいは「もうひとつの知」)の象徴としてガンダーの作品にしばしば登場するモティーフです。彼らの語りは、そうしたさまざまなテーマを通じて人間の本質に迫ります。鳩時計に身をひそめた虹色の鳥は、文明が私たちにもたらした贈り物は「秩序」ではなく、「呪い」だと告げます。人工知能が日進月歩で進化し、簡単に手に入る「答え」が次の瞬間には役に立たなくなってしまうような時代において、「疑うこと」「問いを立てること」の価値を、ガンダーの作品は示してみせるのです。

館内のあちこちに散りばめられた子どもたちの問いかけは、ナンセンスで「弱い」ものに見えるかもしれません。でもそれは、本当に考えるに値しないことでしょうか?「別の答え」へと至る想像力を遮っているのは、巨大なバルーンでしょうか?それとも私たち自身でしょうか?

展覧会のタイトルとなった、カエルの語りにも耳を傾けてみましょう。

「あなたたちは私が「持っていないもの」を憐れんでいるのです。あなたたちは、私の「違い」しか見ていない。私ができないことばかりを基準にして、私を測っている。そして、私ができることには目を向けようとしない。(中略)私の幸せも、私の存在の意味も、あなたたちの物差しでは測れません。あなたたちは全体を捉え損ねているのです。」

美術館の屋外には、脈絡のないあらゆるものが等しく共存する旗が掲げられています。多様性が尊重される時代に、ともすれば私たちは誰かの「弱さ」ばかりに目を向けてしまいます。でも、本当の「弱さ」あるいは「強さ」とは何なのでしょうか?

「間違っているのは、本当は自分なのかもしれない」。ガンダーの作品は、ユーモアと想像力、言葉と物語の力によって、私たちの規範を問い直し、世界を軽やかに裏返してみせるのです。

日本の美術館での個展としては3年ぶりとなる本展では、コロナ禍を経て2023年以降に制作された近作と最新作から、作家の現在地を紹介いたします。「ユー・コンプリート・ミー(あなたが私を完成させるのです)」とガンダーが語るように、展覧会を訪れる人々の多様な彩りによって、いくつもの新たな物語が紡がれることを願ってやみません。

最後になりましたが、本展開催にあたり惜しみないご協力を賜りました関係者の方々に、心より御札申し上げます。

公益財団法人ポーラ美術振興財団

https://www.polamuseum.or.jp/sp/ryan-gander

《周縁を中心に据えて》

Centred on the periphery

2023